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初の遺伝子治療はほとんど予期したとおりの経過で進み、症状の改善も周囲が驚くほど(A氏は「当然」といっているが)成果を上げた。
「それからのマスコミの報道ぶりは、それこそ大騒ぎという状態でした。
私は数しれないほどマスコミのインタビューを受け、治療を受けた子供たちの実名を何とかして知ろうとする動きにも悩まされたものです。
しかし全体的に良好に進んだためでしょう、遺伝子治療に関する社会の評価は全体に好意的で、これからの研究や臨床応用を促進する助けになったと自負しています」この単独インタビューを行ったのは94年冬のワシントンで、遺伝子治療に関した連載記事を書くために、ワシントンから近いメリーランド州ベセスダにあるNIHなどの取材をしていたときだった。
A氏も遺伝子治療の学会に出席するために、教授をつとめるC大学から同じワシントンに行くので、学会会場で会おうという約束をもらっていた。
ワシントンは11日前まで豪雪で、官庁や会社は休業していたほどだったが、インタビュー前夜に、私が泊まっているホテルにA氏の秘書から、論文や雑誌記事など厚さにして10センチほどの参考資料が届いた。
あまり時間がないので、ここに書かれていることは改めて聞かないように、という注文つきだ。
当時の雑誌の記事のなかには、遺伝子治療の具体的な説明だけでなく、博士は韓国の武芸であるテコンドーの有段者で研究所のメンバーにも指導している、などといった紹介記事まであった。
スーツ姿のまま板を試し割りしているA氏の写真も載っている。
徹夜でこれらの資料に目を通してインタビューに臨んだのであったが、実際に会ってみると「なんでも聞いてくれ。
私には隠すことは何もない」と予定をはるかに超える11時間以上をさいてくれたうえ、「皆で記念写真を撮ろう」と同行の編集者や日本人研究者と一緒にカメラに収まったのであった。
まさに研究者というより、政治家かやり手ビジネスマンという印象であった。
研究者のなかには、「Aは半ば売名行為で遺伝子治療を行ったのだ。
その証拠に、いまでは研究の現場には立たないで、ベンチャー・ビジネスのコンサルタントとして忙しい」という声もある。
が、そんな現状も彼は承知のうえで、こうもいう。
「遺伝子治療は素晴らしい可能性をもっているのは間違いないが、まだまだ未知の部分が多い医療です。」
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